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既に卓越した名人芸で半世紀の人気を誇ったフリッツ・クライスラー。機械式録音から、電気録音まで、自分の演奏をレコード盤として残せて、それを永遠に後世の人が愛して聴くことを思えば、楽譜が出版されて忘れないで演奏されることに望みを託したそれまでの音楽家よりも恵まれていると感じていたのでしょう。クライスラーの作曲の腕は、「愛の喜び」や「美しきロスマリン」が結婚式やお祝いパーティでは良く耳にしますから作曲者の名前や曲目は知らなくても誰もが認めるところでしょう。

今日のレコード(CD)は 愛の喜び&愛の悲しみ~クライスラー自作自演集

ウィーン三部作の「愛の喜び」、「愛の悲しみ」や「ウィーン奇想曲」などの他、「クープランのスタイルによる才たけた貴婦人」、「クープランのスタイルによるルイ13世の歌とパヴァーヌ」、「クープランのスタイルによるプロヴァンスの朝の歌」と今ではクライスラーの作曲と明らかになっていますけれども、クライスラーは昔の曲の楽譜を発見したと言ってリサイタルのアンコールで自作と言う事を伏せて演奏していました。他にもバロック時代の名前ぐらいは知っているけど、どういう音楽スタイルだったかなぁと当時のクラシックファンも音楽学者でなければあまり認識の薄かった中で披露しています。

ベートーヴェンやブラームスといった過去の大作曲家の名曲を自分の思うままに演奏して、アンコールに自分の曲として輝かしく演奏するのは一夜のステージの酔いをお茶濁す気持ちだったのかも知れません。ちょうどショパンの「遺作」が次々と発見されて演奏、録音されたり、SPレコード時代には何もかもがバッハ作曲とされていたヴァイオリン曲がLP時代に「四季」がブームと成ってヴィヴァルディの作曲だったと分かってきていた時代です。バロック音楽の最初の名ヴァイオリニストで、作曲家と今では称されているコレルリも同じような扱いでした(これは、コレルリの曲をヴィヴァルディを経由してバッハがオルガン曲に編曲。これが「オルガン協奏曲」としてCD時代になってまでもバッハ作曲で発売されていたこともあったほど)。

クライスラーも「コレルリの主題による変奏曲」を書いています。クライスラーは楽譜に正直な名演奏家ではありませんでしたし、クライスラー編曲として現代のヴァイオリン技術だからこそ実現できるし、効果の上がる演奏に仕立て直しました。「天使のセレナーデ」はブラーガ作曲の本来はチェロのための名曲です。最近では滅多にCD録音もされないので聴いて新鮮。20世紀前半に大ヒットした名曲で、SPレコードからLPレコードがモノーラルの頃までは数多く録音されています。

歌っているジョン・マコーマック(John McCormack)は第二次世界大戦末期に亡くなった、アイルランド出身のテノール。オペラの歌唱では不利なところはなかったようですけれども英語の歌だと「R」の発音が凄く巻き舌のアイルランド訛りが出てきます。SPレコード時代の10大歌手の1人です。

97年前、1914年録音の「天使のセレナーデ」。大正ロマンが満ちあふれます。現代のクラシック音楽が置き忘れてきた、時間が1枚1枚のSPレコードには残っています。クライスラーも来年(2012年に)没後50年のアニヴァーサリーを迎えます。大正時代の音源ですから、機械式録音です。マイクを使わないでメガフォンのような円錐状のものとレコード原盤へのカッティングが直結しているだけの、格好良く言えばダイレクト・カッティングレコーディング。テープも装置も間に介在しないデジタルよりも尚更に理想的な録音方式で記録されています。